ソフト開発の海外発注

加賀 博昭

どうやら最近ソフト開発の海外発注の動きが活発になってきているようであ る。ソフト開発の海外発注とは、ソフト開発の上流工程を日本で行い、下流工 程をインドや中国などの海外のソフト開発会社に発注するというものである。

もっとも、ソフト開発の海外発注自体は、最近になって始まったことという わけでもなく、数年以上前から行われてきたことであるが、日本や海外との商 習慣の違いもありのなかなか広まらなかったようである。しかし、顧客がコス ト面で厳しくなっていることや、国内で優秀な技術者を確保することが難しい ことから、改めて海外への発注に取り組むソフト開発会社が増えているようで ある。

ソフト開発の海外発注により、日本企業のソフト開発にインドや中国の優秀 な技術者の頭脳を活用して、品質の良いソフトを低コストで開発できるのであ れば、日本の産業にとっては良いことであるというのは間違いない。問題は、 日本のソフト開発会社にどうであるかということであるが、どうやら上流工程 を担当してきた元請のソフト会社にとっても、下流工程を担当してきた下請け のソフト会社にとっても難しい問題があるようである、

これまで日本のソフト開発の現場ではありがちだった、あいまいな要件定義 書や下流工程に入ってからの頻繁な仕様変更などは、海外のソフト企業には拒 否されることから、上流工程を担当するソフト開発会社はこれまでの業務体制 を見直し、要件定義やシステム設計をきちんと遂行できる体制を整備しなけれ ばならないのだが、長年あいまい要件定義やシステム設計をやってきた技術者 に、いきなりきちんとした要件定義やシステム設計を求めてもすぐには対応で きない。

だからといって、あいまいや要件定義や下流工程に入ってからの頻繁な仕様 変更などの、日本のソフト開発業界の慣行を海外のソフト開発会社に受け入れ させるのも無理がある、日本の下請けソフト開発会社とは違い、中国やインド のソフト開発会社には、ヨーロッパやアメリカの顧客を探すという選択肢があ るからである。元請のソフト会社は、時間はかかっても地道に上流工程を担当 する技術者の能力向上や業務体制の整備取り組むしかない。

また、下流工程が海外に発注されるということは、下流工程を担当してきた ソフト開発会社にとっては、仕事がなくなってしまうという重大な問題である が、下請けソフト開発会社で元請の技術者の言いなりにプログラミングを行う ような仕事では、優秀な技術者を確保することは出来なくなっていくだろうか ら、もはやこれまでのような下請け仕事はあきらめて新しいビジネスに事業転 換すべきである。

そもそも、既存の日本特有の商慣習をそのまま反映させた業務ソフトを開発 するということ自体、この構造改革の時代には時代遅れである。今、先進的な ソフト開発とは、新しいビジネスモデルに基づいた新しいビジネスのためのソ フトの開発である。これまで、元請に囲い込まれてきたソフト開発会社は、こ れを機会に、元請の庇護と束縛からはなれて、これまでの常識を覆すような革 新的なソフトの開発に取り組んで欲しいものである。